| Casa VINITALIA | |
![]() |
|
| 4 Luglio, 2008 | |
Il Vento dell’Alto Adige .5 〈南チロルの風〉 2001年の1月、その日僕と康一兄さんは ミラノでタクシーに乗っていました。 行き先はミラノ市内の南、ナヴィリオ地区にある 康一兄さんの大好きなお店「サドレル」。 ちょっと出足が遅かったせいもあり、 予約の時間になってもまだたどり着けずにいました。 その時康一兄さんの携帯が鳴り、 「今どちらにいらっしゃいますか?道はお分かりですか?」と レストランから親切なお電話を頂きました。 タクシーの運転手さんも、この場所はわかりにくいと 断言するほど入り組んだ道の奥にあるレストラン。 しかしそんな雰囲気が隠れ家のように感じられました。 ドキドキしながらチャイムを鳴らし、 遅れたことを御詫びしながらエントランスへ。 電話をかけてきたと思われるカメリエーラが 笑顔で僕たちを迎え入れてくれました。 かわいらしい内装の、 こじんまりとしたお店の雰囲気は独特なものでした。 「ミラノは都会だけあって、雰囲気も華やかだな」 広いとも言えないホールに 特徴的な調度品や小物などがあったのですが、 不思議とまとまりがあるように思えました。 席に座りホール全体を見渡しながらそのようなことを感じていると、 先ほどのカメリエーラがメニューとワインリストを持ってきて 「何か食前酒をお持ちしましょうか?」 と尋ねてきました。 僕と康一さんは目を合わせて、 「シャンパーニュを!」と即答です。 前回の話では、そのような場面では 必ずと言っていいほどフランチャコルタだったと綴りましたが、 この日は特別でした。 その日は山下少年の22回目の誕生日だったのです。 そんな特別な日に男二人で食事に出かけて 特別なシャンパンを飲む。 ちょっとおかしいように見られるかもしれませんが、 当時の僕たちは他人の目など気にならず レストランの雰囲気を楽しむことが第一でした。 シャンパンで乾杯をした後はメニューとにらめっこです。 その日もアラカルトで4皿くらい食べるぞと意気込んでいましたので お肉料理、お魚料理、コースメニューとくまなく探ります。 通常レストランに行く時は直感的に 「これが食べたい」と思うものを選ぶようにしていたのですが、 この日ばかりはどれも美味しそうで 選ぶのが大変だったことを覚えています。 しかしこの日は赤ワインを飲むぞと決めていたので、 そのワインに合わせて料理を色々と選んでいきました。 そうこうしていると向こうからコックコートを着た 大きなイタリア人のおじさんが僕たちの方へ向かって、 「お決まりかな|と注文を聞きにきました。 オーナーシェフでもあるクラウディオ・サドレル氏です。 「わー、有名人が僕たちのオーダーを取りにきた」 当時、「四季」というタイトルの料理本も 既に出版されていた有名シェフ。 本屋でも彼の本を何度も見ていました。 そんな有名シェフを前にのぼせ気味になり、 ちょっと緊張気味で注文をします。 結局その日は、家禽系の前菜に魚介のスープ、 ビーゴリパスタにメインは牛を注文しました。 「4皿食べるなら、メインはちょっと小さくするからね」と 心温まるサドレル氏の言葉。 提供する側はお皿の量をもちろん知っていますし、 お客さん側がそれだけたくさんの種類を食べてみたいという 意向を叶えたいと思っています。 しっかりと御召しいただくために、たとえ1品料理のお皿でも 小さいポーションで提供することを惜しみません。 もちろんその分お店側にロスが発生することを 承知で引き受けてくれているので、 本当にありがたい厚意だと僕はそのとき思いました。 さてワインの注文はといいますと、 これがいつものごとく大変な問題なのでした。 当時から僕は何を食べようか悩むメニューより、 何を飲みたいか悩むワインリストに多くの時間を費やしていました。 もちろん無言で。 だまってワインリストとにらめっこをするのです。 同席の方はたまったものではありませんね。 その日も同じように康一さんを放っておき ワインリストにかじりつきます。 当時働いていたミラモンティラルトロでは 1300種類という数多くのワインを扱っており、 毎日僕が見たこともないワインをソムリエのフランチェスコ氏が 多くのお客様に振る舞っていました。 グラスを磨きながらその日空いたワインの空ボトルを 一つ一つメモする日々が続きましたが、 その中でも特に印象に残っているワインがありました。 白地に赤いブドウの樹の絵。 ぱっと見て日本の桜のように見えるラベルが印象的で、 フランチェスコに聞くと 「これはボニッスィモだ(美味しいという意の最上級型)」と言うのです。 その名も南イタリアのサッシカイアこと、 「モンテヴェトラーノ」です。 このワインをサドレルのワインリストで発見した時は、 迷うことなく決めました。 「今日はこのワインを飲んで、フランチェスコにボニッスィモだったと言ってやろう」 ワインの注文を受けたカメリエーラがワゴンに グラスとワインボトルをのせてガラガラやってきます。 なれた手つきでボトルとそのラベルを僕に見せてくれて、 ソムリエナイフでキャップシールを外し、コルクを手際よく開けます。 ホストテイストを行う時のドキドキ感は この時ばかりはたまりませんでした。 少量つがれたワインをまずはそのまま嗅いで、 それから2・3度グラスを回してもう1度鼻にグラスをあてます。 その少量のワインからは何とも言えない奥深さ、 次から次へと現れる香りの数々、 そして口に含むと今まで緊張していた顔がほころびます。 「Buonissimo!!」 その一言を機にカメリエーラから康一さんにワインがサービスされ、 改めて乾杯をした後、サドレルのディナーが始まりました。 優しい味のお皿からだんだんとインパクトが強くなるお皿の構成が、 ワインの酸化具合と相乗し、次に出てくるお皿が待ち遠しいほどでした。 その間のサービスの方々も手際よく、一人一人がきちんと 役割分担をこなし、スマートなサービスでした。 都会的な印象がありましたが、固すぎず柔らかすぎず、 そして皆さんがオーナーシェフのサドレル氏を支えているのが 雰囲気で感じ取れた気がしました。 その日もチーズワゴンには気を取られていました。 先ほどのカメリエーラがデザートの前に ガラガラ僕らのテーブルへやってきたのでした。 正直、その時点でお腹はパンパンでした。 「チーズはいかがですか」と聞かれて、ちょっと躊躇していると、 「お腹いっぱいのようですので、デザートの準備をいたしましょう」と 一度背を向けたのですが、それを引き止めて 「いや、やっぱり食べます」 とここでもチーズ根性を発揮。 その後にデザートまで食べたのですから大変な食欲です。 ここでの発見はピエモンテ産のカステルマーニョです。 牛乳をベースに羊乳や山羊乳を混ぜたものから作られ、 2ヶ月から6ヶ月、より希少なものは2年ほど熟成された 生産量の少ないセミハードタイプのチーズです。 香りも独特で味の濃いチーズだったのですが、 それが栗の花からとれる蜂蜜と共にサービスされ、 食すると何とも奥深い味になるのです。 ちょっと甘苦いニュアンスがある蜂蜜なのですが、 その味の濃さとチーズとの相性の良さに 当時の山下少年は本当に驚かされました。 デザートも食べ終わり、食後のコーヒーも頂いたあと、 相方の康一兄さんがキッチンを拝見させてほしいと申し出ました。 ちょうど営業も落ち着いた頃を見計らい、 サドレル氏に直接お願いしました。 「うちにも日本人が2人働いているんだよ、彼らはブラボーだよ」 相手方の職場を拝見させて頂く時は お客さんという立場は関係ないと思っています。 それはそこに入る人は最高の敬意をもってお邪魔する という感覚を持つべきだと僕は思っているからです。 調理場に入れさせてもらいながら横柄な態度を取るということは、 まるで土足で他人のお家に上がり込むようなもの。 働いている人は嫌な気分になると思います。 他所のお家に行ったら、ちゃんと挨拶をしてお邪魔する。 小さい時から両親から教わってきました。 当然のことです。 キッチンへ入り、元気な声で「ボナセーラー」と挨拶をすると、 皆さんせっせと後片付けに追われている様子。 近くにいた日本人コックさんがすぐ目に飛び込んできて 「こんばんは、初めまして山下将士です。よろしくお願いします」 と言って頭を下げると、 その方がすぐさま駆け寄って来て、ギラギラした目で 「初めまして福本伸也です。今日は美味しかったですか?」 と握手を求めてきたのです。 この一人の日本人コックさんが僕のこれからのイタリア生活を熱く、 そして情熱という言葉を改めて教えてくれる大事な存在になるとは その場では思ってもいませんでした。 続きはまた次回・・・・ ◆ 〈今回登場したワイン〉 「これは南イタリアのサッシカイアだ」 そうロバート・パーカーに言わせたワインの作り手は モンテヴェトラーノのオーナー、シルヴィア・インパラート氏。 彼女はローマで人物写真を撮る写真家でした。 一人の顧客との出会いが彼女をワインの虜にしてしまい、 ローマのエノテカで企画された試飲会へ参加するようになりました。 そこで知り合ったレンツォ・コッタレッラ氏に相談をし、 彼女の好きなカベルネベースのワインをカンパーニャ州で作ることになったのです。 場所はサレルノよりほど近い丘陵地帯にある、 中世からその場に残るモンテヴェトラーノ城。 彼女の家族が1943年に購入し、週末の別荘として使っていた場所。 その麓にある畑に1987年カベルネを植え、 1988年にはレンツォのお兄さん、リカルド・コタレッラを ワインメーカーとして雇い入れます。 初めてのヴィンテージは1000本のみ生産した1991年。 それから近年出されたヴィンテージの2005年まで、 多くのワインガイドからたくさんの賞を獲得。 とりわけイタリアでも屈指のワインガイド、ガンベロ・ロッソでは 1993年から2005年までの13年間で 12回の最高評価トレ・ビッキエーリを獲得。 60%のカベルネ・ソービニヨンをベースに、 30%のメルロー、10%のアリアーニコのブレンド。 品種により8ヶ月から12ヶ月の樽熟成が行われ、 その後6ヶ月の瓶内熟成を経て商品化。 外観は濃いルビー色でとても凝縮感があり、 香りは赤果実から甘いスパイス、カカオ、タバコのようなニュアンスが入り交じり、 そして口中に広がるボリューム感、深みのあるタンニン、 カベルネ特有の香りと共に広がる後味をきれいな酸味で しっかりまとめたような味わい。 このワインが獲得したたくさんの賞は、 シルビア氏に訪れた出会いがワインの情熱へと代わり それが形となった賜物なのですね。 そんな彼女の情熱がひしひしと伝わってくるワインです。
|
|