Casa VINITALIA
5 Settembre, 2008



Il Vento dell’Alto Adige .7
〈南チロルの風〉

2001年の春からお世話になり始めたサドレルでは、
ワインをサービスする仕事、いわゆるソムリエの仕事と
必要に応じてお皿を出し下げするカメリエーレの仕事を任されました。

「イタリアにはワインを勉強しに来ました。」


面接の時に大きい口を叩いてしまった山下少年は、
ミラモンティで身につけたサービススタイルと
本で得た知識のみで臨むことになりました。

しかしどんなに注ぎ方がうまくなっても、デキャンタージュができても、
リストに載っているワインをテーブルまで持っていくまでの準備が必要です。
得た知識をどのように説明するか。それはつまり言葉の問題です。


ミラモンティではフランチェスコやウンベルトがワインの説明しているのを、
他の仕事をしながら聞いていました。
そのような状況でたまたまあった出来事なのですが、
「カメリエーレ!」
とあるお客様から呼び止められて
「このデザートワインは何のブドウ品種で、どのような味わいなの?」と
尋ねられたことがありました。

お客様が言っていることが理解できても、
お客様が知りたいことが答えられない悔しさを当時経験したのです。
それは様々なワインの表現用語を自分の中で解釈し、
そして自分の言葉で伝えるという練習をしていなかったからでした。

「あんな悔しい思いはミラノではしたくない!」


イタリアに来て約1年が過ぎていましたが、
知識の問題や言葉の問題などまだまだ課題がたくさんありました。
もちろん当時はソムリエの資格すら持っていません。
というような状況で私が行ったのは、ただひたすら勉強です。


まず始めに当レストランで扱っているワインリストの中身を覚えなければいけません。
このワインにはどのブドウ品種が使われているのか。
どこの街の近くにある生産者なのか。
一つ一つ確認をしてワインリスト全体の流れを覚えます。
そしてアルファベットのタブが付いた小さな手帳にそれらの細かな情報を書き写し、
いつでもその情報が取り出せるようにしておきました。
ちなみにその手帳はボロボロになった今でも現役で活躍しています。


次にワイン表現用語です。
日本語やイタリア語で書かれたワイン教材をもとに、
色合い、香り、味わいの表現用語を書き写し、暗記をします。
お風呂に入りながら、覚えた表現でシュミレーションをしてみたりもしました。


最後にやはり必須のイタリア語会話です。
この頃から語学学校というものに通い始めました。
午前中から昼過ぎにかけての2時間コースを受け始め、
文法から会話までみっちり勉強しました。

入校して初めて、ミラモンティで過ごした1年間、
本当に語学を勉強しなかったということを実感しました。
ワインやサービスの情報ばかり覚えて、
業務で使うイタリア語以外の言葉は二の次三の次。
当時の自分は言葉に不便を感じるとは思っていませんでしたが、
これほど文法を知らなかったのかと恥ずかしくなりました。

ちょっと喋ることができるという理由で振り分けられたクラスで

「食べるという動詞の条件法言える?」と先生に聞かれて、
「え、条件法ですか。マンジャーレ?」としか答えられなく、
「さあ、皆さんで言ってみましょう。マンジェレイ・・マンジェレスティ・・・・」


実にクラスのお荷物です。
クラスメートがそれを言い終わるまでの無言の寂しさときたら
他に言いようがありません。
私が参加しなかった前コースでの必修分野だったようで、
先生から「これをすぐ覚えなさい」という一言を頂きました。

このようにして昼間勉強したことを夜仕事場で試すことができる。
そのような環境は私にとって語学を吸収するのに最高の環境でした。
しかし学校の宿題もしっかりとこなさなければならなかったことは言うまでもありません。


10時に起きて11時より語学学校。
昼過ぎに帰ってきて、昼食を済ませて15時に出勤。
20
時の営業時間から0時過ぎまで接客をして、
夜中の1時前に帰宅という1日のサイクル。
帰宅後ルームメイトの福本伸也から夜食を作ってもらい、
そこから明け方まで学校の宿題とワインの勉強です。



そんな中で勉強もゆっくりできて、
そしてゆっくり寝ることもできる唯一の休みは日曜日。
その日曜日はまずは部屋の掃除から始まります。

「よし!マサ!掃除するぞ!」

福本は非常にきれい好きなので、何の前触れもなく突然掃除が始まります。
彼がキッチン・リビングを担当し、僕はトイレとバスタブです。
毎日レストランでもトイレ掃除をしているので苦ではありませんでした。

寝ているところを突然起こされて始まるこの部屋掃除は、
休みの残りの1日を清々しくさせるものでした。

その当時、福本から「こまめな掃除をしていれば、大掃除がいらなくなる」
と言われたことがあります。本当にそうだと実感します。
自分がそのように心がけていれば、お客様を迎え入れる空間や
仲間と共に働く空間を常に奇麗に保つことができますし、
常に清々しい気持ちで仕事に臨めますよね。


そしてそんな清々しい休みの日の楽しみはやはり食事です。
しかし当時の僕たちは本当にぎりぎりの生活をしていました。
外食をするのにも一苦労です。

そのような中でも安価な中華料理やパニーノで過ごす日もありましたが、
やはり2人で買い物し、料理をして食べるのが1番美味しい。

お給料日前で本当に2人ともお財布から砂しか出て来ないようなある日、
「ニョッキ作ろうか!」
とまた突然福本が言うのです。

ジャガイモと小麦粉、そしてバターが冷蔵庫に残っていたので
日曜日の昼過ぎからニョッキのバターソース作りをし始めました。
作り方を教わり、一つ一つフォークで型をつけていきます。

1時間ほどかけて作った昼ご飯を、5分もせずに食べ終えて、
小麦粉で汚れた床をまた掃除します。

そうしているうちにまたお腹が空いてきて、
晩ご飯は何を食べようという休日の流れでした。
そのようにして一生懸命作った料理は忘れがたいほど美味しいものです。
どこの有名なレストランにも置いていない、あの時のジャガイモのニョッキ。
外食では味わえない楽しみですね。

そしてここでもまた福本から名言が。
「俺たちの財布は貧しくても、心は豊かだよ」


思えばイタリア料理はこういうところから生まれてきたのでしょうね。
今あるもので美味しいものを作る。
それが伝統の料理に繋がってゆく。
肌で実感した出来事でした。





今回紹介するワインです。


「蜂という名のブドウ」

ヴェネト州ヴィチェンツァから北に15km離れたブレガンツェという町。
その町で産される甘口ワイン、
トルコラートの主要品種でもあるヴェスパイオーラ種は、
完熟した同品種に引き寄せられた
ススメバチ「ヴェスパVespa」にちなんで付けられた名前だと言われています。

9月後半に収穫された後、翌年の1月まで陰干しを行いブドウの糖度を凝縮させます。
その陰干しの方法がまた特徴的で、
収穫したブドウを紐でくくり付けて天井から縦に吊るすのです。

その吊るし方が房をねじるように括っていることからねじる、
しぼるという意味の「トルチェレTorcere」から
「トルコラートTorcolato」というように変わって、
名前が付けられていったということです。

ヴィチェンツァの町では毎年1月の第一日曜日になると、
民族衣装を着た女性達が乾燥ブドウを伝統式ブドウ圧搾機で絞るというお祭りがあります。
町全体がこの甘口ワインの伝統と誇りを大切にしている様子が伺えます。
実際他の県や地域ではこのヴェスパイオーラ種は栽培されていません。
そういう意味でも町の宝物と言えるでしょう。


今回紹介するのは、60年以上家族経営でワイン産業を営むマクラン社のワイン。
トルコラートを始めとする3種類の甘口ワインを始め、
メルローやカベルネからつくられる素晴らしい味わいの赤ワインや、
軽快で飲みやすいタイプの白ワインなどなど、
これらの幅広い生産性はイタリアを代表する作り手だと言えます。

マクラン社のトルコラートはヴェスパイオーラ85%、
ガルガーネガ10%、トカイ5%のブドウ比率で、艶のある黄金色。
蜂蜜のような甘い香りのインパクトが特徴的で、
そこから干し杏や桃のコンポートを連想させる香りに広がります。
そして滑らかでいてしかも強調的な口当たりは、
程よい酸味とのバランスが良く、その余韻も長く味わえます。

ちなみにこの地域では、牛乳から作られたチーズを
トルコラートの搾りかすの中につけ込み熟成させた物を生産しています。
その名も「酔っぱらいチーズ、トルコラート風Ubriaco al TorcolatodiBreganze」。
見つけたらぜひ味わってみてください。

20歳の山下少年が、お客さんに呼び止められて尋ねられたのがこのワインでした。
あの時答えられなかった悔しさが、勉強への執念を駆り立てたました。
失敗は成功のもとと言いますが、あの時の失敗談は目を覆いたくなる物ばかりです。

次回はそんなお話をしようと思います。


                                 Kallmuenz ソムリエ
                                                山下将士

Torcolato 2005, Maculan  (Dolce-375ml)
-Veneto-

4800

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