Casa VINITALIA
16 Gennaio, 2009



Il Vento dell’Alto Adige .11
〈南チロルの風〉


20027月。福本が去った後のミラノは平和そのものでした。
しかし毎
日どやどや言うコックがいなくなったから静かになったというわけではなく、
どこか物足
りない、なんだか勢いの欠けたような空気が、
キッチンだけではなく、レストラン全体に漂っていました。
しかしこれが現実。「今いる人間で、今あるもので最高のものを創り上げる。
それを成し遂げてこそ本当のプロだ。」

彼が去ってから1年数ヶ月、サドレルに在籍することになるのですが、
その間に3つの大きな出来事が山下青年を待っていました。


1つめはその年の暮れ、ミシュランで2つめの星を取得したことでしょう。
それまで働いてきた1年半の中で様々な改革があったことが一つの要因かもしれません。


まず私を含めたスタッフの世代交代。
今までメートルをやっていた女性は事務所に入り、
それまでシェフ・ド・ランとしてやっていたグラツィアーノがメートルへ。
新しくカメリエーラのパオラとコミのカメリエーレでステファノを採用し、
平均年齢が22歳前後という若いホールスタッフを形成しました。
もちろん私以外全員イタリア人で、以前までのやり方にこだわらず、
新しいアイデアを出し合い、どんどんそれらを試していきました。

お客様の前で食前酒用のカクテルを造るにあたり、
バーテンダーのようにシェーカーを振ったり、
チーズのワゴンサービスでの盛り方を工夫したり、
エスプーマを使ったオリジナルカクテルに挑戦し、
結局はうまくいかなかった食前酒メニューもありましたが、
みんながみんなのレストランを造っていく、そんな雰囲気でした。

チーズの産地ピエモンテ出身のパオラ。
彼女のチーズワゴンサービスは素晴らしいものです。
ハチミツや付け合わせのコンフィであんなに
多彩な盛りつけ方ができるのかと感激したくらいです。
彼女の盛りつけをしたチーズのお皿が見たくて何度か
ワインを注ぐ振りをしてお皿を見に行ったことがありました。


しかしそれらは全てオーナーシェフのクラウディオ氏が
容認してくれたおかげでできたのだと思っています。
彼のお店ではあるけれども、若い人材に色々なことを試させる。
そのような頭の柔らかい感性豊かなシェフだからこそ、常に一つのことに収まらず、
新しいものはどんどん試していき、その中で独自性を探していくことができました。


料理に関しては、当時から続けていたイタリア伝統料理をベースに
クラウディオ氏のアイデアを入り混ぜた創作料理に、
スペインで流行していたエスプーマの導入や、
アジア食材との融合など多彩な変化もありました。
とりわけ日本の食材にはひときわ関心をもっていたクラウディオ氏は
かつお節に興味をもち、専用のカンナで削りお皿の飾り付け用で使用していました。
普通のイタリア人から見るとちょっと驚くことばかりだったと思いますが、
たくさんの外国人が研修するキッチンだったからこそ見ることのできた
食文化の交流がこのような形で表現されたのだと思います。


ミシュランからその連絡があった日は、ミラモンティの時とは違いました。
ミラモンティの時は「2つ星だ!やったー」と学園ドラマのようなはしゃぎ様だったのですが、
サドレルでは営業が終わった夜中12時頃にその電話を受けたようで、
着替えながら電話を受けていたクラウディオ氏が
ピースサインをしながら笑顔でズボンを履き替えていた姿を思い出します。
「着替えるか電話するかどっちかにしなよ!」と思ったのですが、
それと同時に「え!?明日2時出勤ですか?」(通常午後3時の出勤だったので)と
えらい勘違いをしたものです。2つ星と2時出勤を勘違いするとは・・・・。
それを知っていれば喜んで1時間早く出勤するのですが。


それからのリストランテ・サドレルは、
ゆとりを持ったサービスを提供する為にテーブル数を減らし、
ホールのモデルチェンジ、椅子やグラスなどの調度品をリニューアルするなどして
全体的にかわいい雰囲気から豪華な雰囲気へとグレードアップしていきました。
その影響もあり毎日満席を頂くほどの盛況でした。


「2つ星のソムリエだな!」
同僚のアルゼンチン人のコックさんから言われた言葉ですが、
その言葉がどれほど重く感じられたことか。
豪華なホールになった、調度品も揃った、
お客さんはまた違った目線でレストランを見てくる。
そんなプレッシャーを日に日に強く肌に感じることとなりました。


しかし今までやってきたことを続けていく、
サービスのスタイルは変えないことが大切だと肝に銘じました。
なぜなら以前までのスタイルが評価されたわけですから、
それをあえて変える必要はないと感じたのです。


事実私が思うサービスの座右の銘は「統一性」という言葉です。
業務内容を毎日同じ状態でこなしていくという統一性。
全てサービス器具の位置及びテーブルのセッティングが同じという統一性。
全てのお客様に平等に接するという統一性。
自分自身の健康を毎日いい状態に保つという統一性。
そのような一貫した考えや行動が職場の雰囲気また
レストランの雰囲気を作り出して行くものだと思うのです。


ミシュランガイドの幹部が食べにきたときもそうでした。
そのテーブルがミシュランだと知ったときは既にコーヒーが出た後で、
「このテーブル、ミシュラン!?知ってた?」と同僚に聞くと、
知らないのは私だけだったという辛い事実を知らされました。
「なんて鈍いサービスマンだ。まだまだ修行が足りん!」

と思いつつも、知りながらもそのテーブルには少しもひいきはせず、
通常通りのサービスをし続けた他のスタッフに感動したのも同時でした。

「統一性」という自分の目標を、
一緒に働いている人たちが自然にやってのけている。
悔しくもあり、嬉しくもあり、また、やはりこの姿勢を貫こうと
改めて強く感じることのできた経験でした。


このような対応のできるスタッフのいる環境は
一朝一夕で整えられるものではありません。
サドレル氏が長年かけて造り上げてきた、料理以外のひとつの大切なお皿なのです。
舌で味わうこと以外の、身体で感じる安定した安心。
この一枚の、欠かすことのできないお皿こそ、
星に関わる大切な要因だったことは言うまでもないでしょう。


ある定休日の夜、クラウディオ氏はスタッフ一同を
知人のレストランに招待してくれて祝賀会のようなものを開いてくれました。
「伸也がいないのは残念だな。奴がどれだけこの2つ星に関わっていたことか」
言葉にこそ出しませんでしたが、きっとクラウディオ氏を含め当時のスタッフは皆、
福本の存在が偉大な功績を残しこの結果に繋がったんだという思いも
どこかにあったに違いありません。


この同じ地続きのスペインで、彼は今頃バタバタと働いているのか、
それとも同じように赤ワインでも飲んでくつろいでいるのか。
トスカーナの赤ワインを口に運びながら、そんな彼の姿を想像するのでした。









今回紹介するワインです。

創業から1000年にも及ぶ長い歴史と共に、
キャンティ・クラッシコ地区のガイオーレの丘の上にブローリオ城は君臨しています。
リカゾリ家のお城ではあったものの大資本メーカーにその商標の一部を売却してしまい、
長い間リカゾリの名前で低品質のワインが造られていました。

現オーナーで32代目のリカゾリ男爵でもあるフランチェスコ氏が
見るに耐えきれず1993年にその商標を取り返しました。
そこから彼のリベンジが始まり1997年に念願のそしてこだわりのある
キャンティ・クラッシコ・カステッロ・ディ・ブロリオを造り上げたのでした。
キャンティにこだわる反面、その弟分な存在でサンジョベーゼの特徴を生かし、
尚かつそれらに馴染みのない人にでも受け入れられやすいワインも生産しました。

それが今回紹介するワイン「カザルフェッロ」です。


フランチェスコ氏が商標を取り返した翌年の1994年から生産されている
ワインですが、当初はサンジョベーゼ100%だったようです。
1997
年より補強品種としてメルローをブレンドし始めたようですが、
全体的にモダンで親しみやすいタイプのワインです。

黒に近い濃いルビー色に、香りも外観同様、凝縮感にあふれた果実香。
ラズベリーや桑の実のジャム、ヴァニラ、ユーカリ、
甘いチョコレートなど甘くて心地よい香りを運んでくれる。
味わいはメルローのインパクトとサンジョヴェーゼの膨らみが特徴的。
飲んだ直ぐ後から後味にかけて自分の特徴を何度も色々な形で伝えてくる。
果実味、ボリューム感、それらをうまく酸で結びつけ
後味にかけてタンニンが広がっていく味わい。


元々自分の家の所有地ではあったもののフランチェスコ氏は数年で
以前までのイメージを払拭するような高品質ワインを造り上げて行きました。
一代でこの結果を出す為に、どれほどの努力と試行錯誤、
苦労が繰り替えされたことでしょうか。

学校の先生からシェフになり、
街のオステリアから二つ星のレストランにまで品質を上げたクラウディオ氏も、
並々ならぬ努力をしてきたに違いありません。


おいしいワインができたからそこで終わりではなく、
星を二つ取ったからそこで安心していいわけでもなく、
品質が高いからこそ求められる、安定した質と、
さらによりよい物を目指して行く姿勢。それが消費者に伝わるからこそ、
喜ばしい評価となって戻って来るのではないかと思います。


あの時の祝賀会でいただいたこのワインを目にすると、
いまでもクラウディオ氏の顔と、自分が見てきた彼の功績が思い出されます。

しみじみと、ゆっくりおいしく味わいたい僕の好きなワインのひとつです。



Casalferro 2004, Barone Ricasoli
-Toscana-

¥5500 >>> 
DM特価 4800
 数量:

                                 Kallmuenz ソムリエ
                                                山下将士


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