Casa VINITALIA
9 Aprile, 2009



Il Vento dell’Alto Adige .13
〈南チロルの風〉


「なんてことない一言が、将来にどう関わるかなんてわからないものだ」

2003年の春、それはちょうど今ぐらいの時期でした。
世の中は復活祭前で、サドレルは「パスクア休暇」に入っていました。
パスクア(復活祭)はキリスト教にとって非常に重要なお祭なので、
学校やお店はほとんど閉まります。
この休暇に馴染みのない外国人の僕らにとっては、
ゴールデンウィークのような長期休暇が取れたと、
ただただ喜んでいたのを思い出します。
1週間あるこの休暇をミラノのアパートで過ごすのはもったいない。
ないお金をはたいてでも旅行に行こう、
そう決めた休暇でもありました。


この休暇中に訪れる予定のひとつに、以前サドレルのキッチンで
働いていた日本人コックさんが活躍しているレストランがありました。
それがアルト・アディジェ州のメラーノにあるレストラン・カルミュンツだったのです。


その日本人コックさんとは、佐藤幸雄さん。
彼とは約1年以上サドレルで共にし、
そのうち数ヶ月間はルームメイトでもありました。
4歳年上とは思えないほど親しみやすく気が合う仲で、
よく遅くまでお酒を飲みながら世間話をして、
横の部屋で寝ている福本に「うるさい!」とどやされたものです。


そんな彼がサドレルを辞めて向かった先が
メラーノに新しくオープンするレストランでした。
「シェフがナポリの人で、古いお城の一部を使ったレストランで、町の中心で・・・」
色々と話を聞いているうちに「大丈夫か?幸雄さん!」
と心配になったのが正直なところです。
特に「ナポリ人のシェフ」というところに非常に引っかかっていました。


当時からナポリはスリや置き引き、
それも集団で行うと言うような噂をよく聞いていたので、
少し行きたくない、怖いというイメージがありました。
そして南の人はあまり仕事をしないという話も聞いたことがあったので、
幸雄さんの行く先の心配をしていたわけです。


ともあれ、離れた場所から気にしていても仕方のないことですし、
北イタリアのカンティナの見学も含め、幸雄さんの
陣中見舞いにいくつもりでこの休暇の予定を立て始めました。


ヴェローナを超えたあたりからメラーノへ向かう高速道路では、
見事な景色が続いていました。山の頂にはまだうっすら雪が残り、
麓は新緑の柔らかな色に染まり、その渓谷は段々と深みを増していきました。
町へ付き車を駐車して町を散策。実はここは一度来たことある町でした。

ミラモンティで働き始めて2回目の休みの日に、
同僚のコックさんが車で連れて来てくれたところだったからです。
見覚えのあるかわいい町並みの光景を再び目にしながら、
イタリア語が満足に使えなかった当時のことを思い出します。
町の散策を続けようやくレストランの位置を確認。
幸雄さんの言ったとおり町の中心に立派なお城があり、
外観からは中にレストランがあるとは思いつかないような、
堂々としたたたずまいでした。


予約の時間になりレストランに訪れ、お店に一歩足を踏み入れたとたん、
素敵な空気が私を出迎えてくれました。
古い木の温かみや間接照明の柔らかさ。
1500年代に作られたお城の、馬小屋に使われていた部屋だったとは
到底想像できないモダンで落ち着いた空間でした。
席に通されていよいよカルミュンツの料理を堪能し始めます。


その日も前菜、プリモ、セコンド、ドルチェとお腹一杯食べに食べ、
食前酒のスパークリングワインと地元の赤ワインを1本注文する、私なりの豪遊です。
料理は全体的に軽めな印象で、南チロルの郷土料理
カネーデルリやスペックなどはまったく出てきません。

それもそのはず。シェフはナポリの方のなので、
バターや生クリームはデザート以外はあまり使わず、
シンプルに香草やスパイスなどで、素材をデリケートに扱っている印象がありました。
それが前菜のお魚のマリネであったりセコンド・ピアットのソースであったり。
お肉の焼き加減も絶妙なもので、その柔らかさと旨みを保ちつつ、
それを香草のソースでまとめたようなセコンド・ピアットを堪能したのを覚えています。
当時はシンプルな料理が割と多かったように思いますが、
その裏手にはしっかりと勉強されている感じが料理から伝わってきました。


このような南のニュアンスのある料理にアルト・アデジェワインはどう答えるのかと思いきや、
フレッシュな果実香や重過ぎない骨格、心地よい酸味などが
意外にしっくりと合っていた感じを受けました。
「南と北の組み合わせも楽しいな」と思えた瞬間です。


「幸雄さんはこんな素晴らしいレストランを見つけて羨ましい!」

料理を食べていてつい口走った言葉です。

そしてサービスはといいますと、「感じがいい」ように受けましたが、
シェフのような、勉強をしているオーラといいましょうか、
そんな印象がちょっと薄かったように思いました。
食べながらひっきりなしに「ここのシステムはこのような感じで、
ここからシルバーをセットするのか。このようにワインをサービスするのか。」など
自分がここで働いているかのようにホールに熱い視線を送っていました。
当時はそのようなレストランの楽しみ方をしていましたが、
この時ばかりは他のレストランではめったにない
「自分がここで働くイメージ」を強く感じたような気がしました。


食事の終わりかけにシェフと2人の日本人コックさんが
全てのテーブルに挨拶に来てくれました。
1人は幸雄さんでもう1人は南原章二君という、彼ともまたミラノ時代からの飲み仲間で
一緒に働いたことはなかったのですが、お客さんとして来てくれたり、
仕事が終わった後飲みに行ったりとプライベートで何度か遊んだ仲でした。
そんな彼等2人をつれて背が高く凛々しい顔つきで
立派なひげを生やしたシェフが僕らのテーブルに近づいてきて
「こんばんは、今夜はいかがでした?」と丁寧に挨拶してくれました。
「素晴らしかったです、食事を楽しみました」
緊張の面持ちで答えます。


シェフのはじめの印象は「あら、立派な方!」というものでした。
礼儀正しく、ナポリ弁も喋らずきちんとしたイタリア語でゆっくり話をしてくれたのです。


食事が終わってお会計も済ませた後、話も尽きないので場所を変えるために
2人のコックさんとシェフを交えて近くのバールへ飲みに行きました。
彼らは仕事終わりなのでビールと大きなパニーノをほお張っていました。
「君も食べるかい?」「いや、食べたばっかりなので!」


そして色々なレストランの話や今のレストランのオープンまでの逸話など
シェフの口からたくさん聞くことができました。
人懐っこく話しかけてくれるシェフに、私が丁寧な口調で話していると
Dammi Tu(ダンミ・トゥ)」と言ってきてくれました。
形式ばらずに親しく話そうという意味合いで言ってもらえて、
「初対面なのにいいのかな?」なんて思っていました。


そしてルイジシェフに思いっきり、「ナポリはどんなところですか?」と聞いてみると、

「ナポリはいい町だけど住むところじゃない」と意外な答えが返って来たのです。

それはルイジ氏本人もメンタリティーの違いに以前から疑問を抱いていたのだということ。
というよりも率直に好きではなかったということ。
「今日できなかったら明日でもいいじゃないか」とてきとうな時間の管理であったり、
人を騙そうと試みたりするような友人知人を多く見てきて飽き飽きしていたのでしょう。


「自分の生まれ育ったところに帰ろうとはしない、そのような感覚もあるんだな」

ナポリ人でもナポリが苦手。でもその一言にシェフの人間味を感じ、
ナポリ人は怖い人というイメージを払拭できたと同時に、
狭い視野しか持てていなかった自分が恥ずかしくも思いました。
そこでの飲み代はシェフにご馳走になり、「また会いましょう」とお別れをしました。


そして日本人の彼らが住むアパートへ向かい、そこでまた飲み直しました。
みんなにシェフのこと、町のことを色々聞いていると、
仕事と生活の両方を楽しんでいる彼らの様子がひしひしと伝わってきました。


幸雄さんの部屋でベットを用意してもらっている時、
ポロリと「ねぇ幸雄さん、メラーノに仕事ある?」
と聞いている自分がいました。


そういう酒の場で言ったことなんてない、
重要とも思える一言が私の将来を導くわけです。










今回紹介するワインです。

アルトアディジェ州でも指折りの生産者、コルテレンツィオ。

この生産者の上級ライン「コルネル」とは、アルト・アディジェ州の
色々な畑のブドウをセレクトして醸造したシリーズです。
単一白ブドウ品種ではシャルドネ、ピノビアンコ、ピノグリージョ、
ゲヴュルツトラミネールの辛口と甘口の5種類に、
黒ブドウ品種のピノネロ、ラグラインと今回紹介する「コルネリウス」の3種類と、
実に多くの「コルネル」ラインを生産しています。
2006年度から出荷されたワインにそれぞれ名前が新しく付き、
より個性を明確にしたのが注目を浴びました。


メルロー60%とカベルネ・ソーヴィニヨン40%のブレンドで造られる「コルネリウス」は
ボルツァーノ近郊のコルナイアーノとセッテクアルチェの畑から収穫されたものを使用しています。


紀元前15年、ローマ帝国がこの土地を治める中、
コルネリウスという農民によってこの土地が開拓され、
ブドウが作られたとされる逸話が残っているため、
この名前が付けられたそうです。


紫とルビー色の混合色。とても濃い色合いで、
香りは甘いスパイス香と赤果実の香りが充分に調和されています。
時間が経つにつれて、より奥深い赤果実香が際立って感じられ、
それは同時に心地よい感じを与えてくれます。
味わいはメルロー特有の口当たりの滑らかさ、
ほのかに甘さすら感じられるボリューム感が非常に繊細で、
伸びのある酸味や渋みが後味の香ばしさと共に全体をまとめてくれる印象です。


このワインはこの土地の郷土料理、例えばスペックやカネーデルリ、
牛肉の煮込みグーラッシュなどにも、十分に合わせられるワインではありますが、
重厚すぎないストラクチャー、心地よい酸味や程よい渋みなどは、
他の地域の郷土料理をはじめ幅広い面で食事に合わせられるのではないかと思います。



Cornell Cornelius Rosso 2005, Colterenzio
-Alto Adige-
¥6700 >>> 
DM特価 5800
 数量

                                 Kallmuenz ソムリエ
                                                山下将士


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